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東京高等裁判所 昭和29年(ワ)42号 判決 1954年12月21日

上告人 中村銓爾

株式会社 光月

右代理人 栗原勝

被上告人 佐藤信蔵

主文

本件上告を棄却する。

上告費用を上告人両名の負担とする。

理由

上告人両名代理人は「原判決を破毀する。訴訟費用は、被上告人の負担とする。」との判決を求め、その理由として、別紙上告理由書記載のとおり主張した。

上告理由第一点に対する判断。

上告人両名主張のように、昭和二十八年十月十六日の原審の決定と昭和二十八年九月二十二日附の上告人両名(控訴人両名)代理人の訴訟引受申立書によれば、右訴訟引受の決定が民事訴訟法第七四条に基いてなされたものであることは明かである。しかして、本件は上告人両名が原告となつて脱退前の当事者(被告、被控訴人)であつた猪鼻武雄を被告として豊島簡易裁判所昭和二十六年(イ)第二三号和解調書の執行力ある正本に基く執行力を排除する訴であることと、右和解調書によれば、訴外山岡正一が本件建物の所有者として、本件建物に居住している上告人両名との間に、上告人両名が昭和二十六年八月末日迄に金二十五万円の支払を受けると同時に、本件家屋を山岡正一に明渡すことを約したがその後山岡正一が本件建物を猪鼻武雄に譲渡しその旨の登記手続を了した上、右和解調書に猪鼻武雄が承継執行文の付与を受けたので、上告人両名が猪鼻武雄を被告として、上記の請求異議の訴を提起したこと、及び、本件訴訟の係属中に猪鼻武雄が本件建物を被上告人に譲渡し、その旨の登記手続を了したので、上告人両名が上記のように訴訟引受の申立をなし、その旨の決定がなされたことを、原判決及び上記上告人両名の訴訟引受申立書及び訴訟引受の決定書によりそれぞれ認めることができる。故に、被上告人が本件建物の所有権を譲り受け、上告人両名に対する本件建物の明渡請求権からみれば、上告人主張のように権利の承継人であるが、本件訴訟の目的である請求異議の関係から考えれば山岡正一は債権者ではなく債務者であり、猪鼻武雄及び被上告人は承継執行文の付与を受けたかどうかには関係なく債務の承継人であつて、権利の譲受人ではない。かく解さないと、請求異議の訴訟で、本件の場合のように、訴訟の係属中に権利を譲渡した場合には、右訴訟を提起していた債務者は、新債権者が民事訴訟法第七一条によつて進んで訴を提起しない限り、別訴を提起するの外なく、本件の上告人両名のように引受の申立によることができなくなり、第七四条の訴訟引受の制度を認めた趣旨を沒却されることになる。故に本件の場合に第七四条による上告人両名の訴訟引受の申立を理由ありとして、被上告人に対し訴訟を引受けしめた原決定は正当で、第七一条に関する上告理由は、原決定が第七一条によるものでないこと上記説明のとおりであるから第一点の上告理由はいずれにしても、理由がない。

上告理由第二点に対する判断。

本件の和解調書を作成するに際し、上告人両名と山岡正一との間に本件家屋を中心として紛争があつたか否やについては当事者間に争いがあり、原判決の挙示している証拠によれば、その認定しているような紛争の存したことを認めるに十分である、故に本件の和解が当事者間に争のないことについて債務名義としての執行力を得るためにのみなされたとの上告人の主張は、原審の適法になした事実認定を攻撃することに帰するから、その余の点の判断をなすまでもなく採用するに由ない。

故に本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条によつて本件上告を棄却し、上告審での訴訟費用の負担について同法第九五条第八九条を適用し主文のように判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 中村匡三)

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